あなたを見ているときだけ世界は完璧だ

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魔がそこにいる

ブラウザ三国志という困ったゲームがあるのは皆様ご存知だと思います。1日5分づつでも遊べるとかそういうキャッチフレーズでプレイヤーを募っておりますが、それはごくごく表面的に楽しむ時の話。うっかり始めると大変なことになります。

(以下、ハンドルネームは適当に変えています)

俺は、盟友ゲイル氏のSOSに応えて、彼の領土に向かって馬を飛ばしていた。完全にあわてふためいていたゲイル氏は斥候を作る余裕すらなく、敵の正体は全く判明していなかった。おまけにゲイル氏の領土は北方の遙かな辺境にあり、最も近い部類の俺の居城からも、相当な手練の武将にかなりの兵をつけないと安全には到着できない距離だった。
ゲイル氏があわてるだけのことはあり、クロマティはかなりの勢いでゲイル領を侵しつつあった。既に敵の支城が2つ、前線を形成しており、その両脇には、敵の同盟員であるシピントマソンが控えている。
本拠地の隣接がとられるまで、あと3マス程度。この状況だと、隣接されることはほぼ陥落することに等しい状況だ。まだ序盤ではあったが、この状況に対応するために俺は予定を急遽変更して衝車の研究を完成させたが、おかげで国庫はほとんど空の状態。状況はかなりきびしい。

俺の騎馬隊はなんとか目的地にたどり着いたが、かなりの数の民兵の迎撃を受けた。なんとか鎮圧に成功したときには、軍隊も、それを率いる武将も相当なダメージを受けていた。すぐに武将は交代させるが、軍隊の方は補給しようにも、そのための拠点をすぐにでも建設しなければならない状態だ。ここはCP(課金ポイント)を大量投入して、一夜城を作るしかない。しかし、そこに物見の兵の血を吐くような絶叫が。
「敵襲!敵襲!」
ゲイル氏も厳しい台所事情を押して援軍を差し向けてくれていたが、もとより彼が受け切れるようならば俺はここに出兵していない。かろうじて最初の襲撃は撃退したものの、やがて来るであろう第二波はどうしようもない。俺は絶望的な気持ちで築城を進めていた。
しかし、敵の第二波の様子がおかしい。移動時間から判断するに、この一夜城を破壊するために絶対必要な攻城兵器が含まれていないのだ。ひょっとして、クロマティは、まだ攻城兵器の開発が終わっていないのに、見切り発車的に攻撃を始めたのではないか?と俺は思った。できる範囲で送り込んでいた斥候の報告も、それを裏付けていた。攻城兵器を作るための施設は、どうしても発見できなかった。「奴は衝車をもっていないと思う。たぶんそうだ。攻撃をすかして、本拠地に衝車を送り込めれば勝てる」俺は、同盟員にそう伝え、準備と攻撃を促した。俺は少し安心して、短い眠りに就いた。

翌日朝、ログインしてみると、味方の同盟員から書簡が来ていた。
「あなたの指示に従って攻撃したが、拠点はすべてもぬけの空だった。しかし、攻城兵器を混ぜた攻撃だけは効果的に迎撃されている。情報が漏れているのではないか?」という内容だった。
「俺がやったように、部隊の移動時間から類推すれば、攻城兵器のありなしは判別することができる。これはそのようにして判別したものに違いない。」
俺はそう力説したが、同盟員の反応はなぜか冷ややかだった。
その理由は、次いで送られてきていた盟主からの書簡を読んで明らかになった。

内容的には、ただ我々の同盟を挑発するものだった。
だが、問題はクロマティ氏からの書簡に以下のような文言があったことだった。
「奴は衝車をもっていないと思う。たぶんそうだ。攻撃をすかして、本拠地に衝車を送り込めれば勝てる」
…まさしく、昨日俺が書いた文面だった。
同盟員だけが閲覧できる掲示板に俺が書きこんだ文章が、なぜか敵の盟主からの書簡に引用されている。これと攻撃失敗の結果を併せ、俺の内通が疑われていたのだ。
さらに、この時点でシピントマソンが、クロマティと同一のプレイヤーが所有しているアカウントらしいことが判明していたのも話をややこしくしていた。俺は裏切り者である疑いと同時に、クロマティ氏自身である疑いも同時にかけられていたのである。


俺は俺で、背筋の冷たくなる思いをしていた。俺が内通していないことは俺自身が一番よく知っている。では残る可能性は、
・誰か他のものが内通している
・他のものがクロマティ氏自身のサブアカウント
・同盟のIDが抜かれ、掲示板が見られている
のどれかだ。

とりあえず、当面作戦上の同調が必要な最低限の相手とはメッセンジャーで連絡をとることにし、同盟員からの信頼を回復するためにも、単独で攻城戦を行うことにした。これにはそれなりに手間がかかるが仕方がない。もうすでにまる3日間、ろくに眠っていない俺は、体力の限界が近いことを感じていた。

効率の悪い包囲戦を通じ、敵の支城を陥落させた時だ。
クロマティ氏からの書簡が盟主あてに届いた。
「降伏したい。そちらの言う通りにするから、条件を出してほしい。
こちらは降伏するのだから、そちらの同盟の中で話がまとまるまでの間、攻撃は差し控えてもらいたい」というのがその内容だった。
初めての戦争で疲れ果てていた、こちらの同盟員たちはこの話に飛びついた。奪われた土地に加えていくつの土地を要求するか、どこの土地を要求するかという話がだらだらと続けられた。
この間中、俺は「これは時間稼ぎだ。奴は絶対その間にこちらを攻撃する準備をしている。おそらく、兵器の生産がおわるまでに時間が必要なだけなんだ」とわめき散らしていたが、既に同盟内での信用を失っていた俺の言うことに耳を貸すものは少なかった。結局同盟内では、数人の主要メンバーの合議で条件を提出することに決まった。

俺は彼らのお人よしぶりに歯ぎしりしていた。体力は既に限界に達していたので、もうこのままログアウトして思うさま眠ってやろうかとも思った。しかし、ここまでやってそれはどうにも悔しかった。
もういい、と俺は思った。同盟を追放したいなら好きにしろ。ゲイル氏の領土だけ守れればそれでいい。ゲイル氏にだけそれを伝え、結局俺は同盟内の取り決めを無視して、敵の領地にくまなく斥候を送り込んだ。

案の定だった。斥候の報告によれば、敵の拠点には攻城兵器の準備が整い、その他多くの軍勢が準備され、さらに数がそろうのを待っている状況だった。
俺は直ちに手持ちの軍隊を敵の拠点に向けて出撃させ、それから同盟にこの事実を報告した。同盟の決議を無視したことが、結果的に同盟員からの信頼を回復することになるというのは皮肉なものだ。払暁を待って(軍隊の生産が間に合わなかったので)、全軍での強襲を行うことになった。

先に軍隊を送ってしまっていた俺は仮眠をとった。
が、眼をさましてみると、クロマティ氏の陣営は影も形もなかった。彼は「離反」コマンドを使って領土を放棄、われわれの攻撃を受ける前にゲームを去ってしまったのだ。
突然の幕切れに、われわれは呆然とするしかなかった。
情報漏れの真相は何だったのか、スパイはいたのか、いたとしたら誰だったのか、それらを知る手段は残されていなかった…。


ちょっとはしょってはおりますが、だいたい実際のゲームはこんな感じでした。この体験の濃密さは面白いと言えば面白いのですが、ちょっと面白すぎてしんどいです。体力的にも、金銭的にも、精神的にも。
ブラウザゲームはお手軽なイメージがありますが、表面に騙されちゃいけないのです。他のゲームと同じように、いや、もしかしたらそれ以上に、人の心を狂わせる魔が巣食う余地があるのです。